素人系総合 wiki - 榎木田美潮

榎木田美潮【えのきだみしお】

CV:安玖深音?/登場作品:潮風の消える海に

 聖ヨハネス高等学校1年。本作のメインヒロイン。川崎市の各階一部屋しかない超高級マンションに住んでいる。真昼間に三十代のサラリーマンから車の中で押し倒されそうになっていたところを宮地進に救出され、咄嗟に最寄りの無人駅(おそらく浅野駅)の男子トイレに押し込まれた。進から見た第一印象ははっきりとした目尻、艶やかな黒髪、柔らかそうな頬、薄紅色した唇を持った少女というものだった。
 沈んでいる船(NASE号)を引き揚げて航海に使うという計画に「正気? ……馬鹿じゃない?」と発したことから側にいた進に腰を押される形で海に蹴り落とされた。無意識であり、ここまでするつもりじゃなかったと手を伸ばす進に対し、「おとなしく……落ちなさい!」と海に引っ張り込んで道連れにした(背後から東上浩介が進の背中に一撃を食らわして手伝っている)。自分が陸に上がった後もローファーの踵で進を踏みつけ、上がらせないように何度も足蹴りしている。
 これで怒りを収めたかと思われたが、その後毎日のように進に対して悪戯を繰り返すようになった。鳴子を仕掛けたり、落とし穴を掘ったりという比較的小さなものからからNASE号全体を雑草で覆い隠すという手間がかかるものまで多岐にわたる。NASE号付近に二筋の雑草を束ねて縛った仕掛けを用意して、通りかかった進を転倒させたこともあり、付近にはこれ見よがしに「バーカ」という小さな紙きれを開いたまま置いて挑発した。また進が雑草の束を船体(ハル)から引っぺがえすと呪いのワラ人形という解説が添えられていた。
 浩介を「東上くん」(後には浩介くん)と呼ぶのとは対照的に進には高圧的な態度をとる。進と浩介のNASE号修理を隠れて近くから見ており、一度木立の影に隠れたところを進に見つかった。以後その日は進と浩介とともに過ごしたが、浩介と別れ、進と二人きりになると途端に不機嫌を露わにした。しかし、進が海芝浦駅に行くと言って電車に飛び乗ると慌ててついて行く。夜、進に付き添われて川崎市の自宅まで来た際にクラスメイトの椎木莉佳子と出会った。「彼氏?」と聞く莉佳子に対して、美潮は「通りすがりの知り合い」だと話している。
 翌日以降、あれほど執拗に繰り返していた悪戯をパタリとしなくなった。数日して進は繁みの脇にしゃがみこむ美潮を発見した。「何、企んでるんだ」という進に対して美潮は「……誤解しないでよ」と耳元で囁き、唇を重ねた。工事現場の人に発見されてヨットの修理がバレることを危惧した咄嗟の行動であるといい、後から美潮は「ノーカウント」「あんなの、数のうちに入らない」と主張する。その後二人で無言で海を眺め続け、美潮はようやく「無かったことにして、なんて勝手なこと言って」と呟いた。進は助けてもらったのは自分だからいいというが、謝るなら「くっだらない悪戯」の方が迷惑であり、「冗談ならもっと頭使え」と言った。美潮は表情を変え、進の背中に手を回し、抱きしめるかのように引き寄せたあげく、海に追い落した。自らが海に落とされたことは依然根に持っているようで、今回は莉佳子をヨット修理の仲間に入れたことに対して「手が早いにも程がない?節度ってないわけ?」と進を非難した。この時進が「莉佳子さん」と呼んだことは一層の不興を買い、美潮は「もう名前で呼ぶくらい親しくなったんだ」と言って割れた西瓜のようなコンクリートを次々と進のいる海に投げ入れた。
 ようやく陸に上がった進は服を着たまま駅の水道で身体をザッと洗い、岸壁のコンクリートに寝転がった。濡れた身体が乾いた頃に浩介と莉佳子がやって来る。美潮が進に当てつけるように莉佳子をこれまでの「椎木さん」から「莉佳子ちゃん」に変えて呼ぶと、莉佳子は美潮のことを「みーちゃん」と呼んだ。意表を突かれた美潮は照れ臭そうにして浩介や莉佳子にならそう呼ばれてもいいというが、進に対しては「あの馬鹿は絶対だめ」と断言した。
 親公認の婚約者がいるといい、家では良家の令嬢のように取り繕っている。ある日、NASE号が消えた際、疑いを持って家までやって来た進に、頬をビンタされた。その時美潮は微動だにせず、裏切られたという表情をしていた。進によれば美潮がお嬢様面しているのは嘘だという。海に蹴り落とした時、泣かなかった美潮を見て、家族や信じている相手から裏切られ、傷つけられた経験があるために、傷付き慣れているのだと確信した。両親の離婚を経験した進は常々自分と同じ不幸な家庭の匂いがすると思っていたが、この日進の目には美潮がお嬢様面して表面上は両親から寵愛を受けているように見え、裏切られた思いを抱いたのだという。この時、夏期講習をさぼってヨット修理を見に来ていたことが両親にバレたこともあって、美潮はしばらく現われなくなる。
 進は謝ろうと美潮のマンションの前で朝から晩まで待ち続けた。夏休みも最後の日になった時、ようやく美潮が登場する。進の背後から強烈な打撃を入れ、今すぐ「十万円」を用意するように言った。ヨットはその存在に気付いた産廃業者が撤去していた。十万円は産廃業者への謝礼やタクシー代、運送費用などでなくなり、美潮が許可を取り付けて廃工場にそのヨットを運び込むことができるようになった。廃工場で美潮は産廃業者から譲り受けたのは自分であるからこのヨットは自分の所有物だと高らかに宣言した。浩介や莉佳子におだてられ、相好を崩す美潮だが、進に対してはにこやかな笑みを顔面に貼り付けたまま、ローキックを繰り出した。
 その後はヨット修理に再度加わり、他の面々と共に2年のゴールデンウィークには船舶免許も取得した。両親からの金銭援助には頼らず自らのバイトで得た全財産をヨットに費やし、外食などはもってのほかという生活を続けた。そして夏休み、いよいよヨットでの航海が近付いてきた折、進と海水浴に行った。
 幼い頃に父を失い、現在の父は義理の父にあたる。両親が再婚するまでは「市橋美潮」という名前だった。実の父は元々セーラーであり、子供の頃はその話をよく聞かされていたという。ただ、今となっては風を切ってセーリングした感触が微かに残るのみであり、ヨットに関する知識は遺品の本を何度も読み返しているうちについたのだという(トリマランを見て感激するシーンがある)。母子家庭で育ったこともあって、料理はうまい。
 8月に入ったある日、莉佳子が「デート」だと言って進を誘った。6月頃から美潮がクラスとあまりうまくいっていないことを心配した莉佳子が進に何があったか尋ねることが目的だった。翌日、美潮は朝から態度が変で、進に「昨日、いったい何してたのよ」とつっかかった。ついには進が自分のことを榎木田と呼ぶのが気に入らないとして、自らも「進」と呼ぶことを条件に「美潮」と名前で呼ぶように言った。進が婚約者がいるのに他の男(=進)を呼び捨てにするのはダメだろ、みんな(様子が)変だって心配してたんだぞと切り返すと「知ったような口きかないで!何も判ってないくせに!」と叫び、偶然ホームに停車していた海芝浦行きの電車に飛び乗った。それから数日、美潮は姿を見せなかった。
 盆休み明けに何事もなかったかのように美潮は戻って来た。浩介の提案で美潮と進が初めて二人でセーリングすることになる。それは本人たちにとっても案外悪くない感覚だった。進にとって同技量を持つ美潮とのペアはこの上ない安心感があった。
 夏休みも後半に入った頃、美潮は突然明日は休むと言い出す。台風が迫って来ており、わざわざ告げなくてもセーリングは中止になっていたはずだった。悪天候の中、まさか来ちゃいないだろうと思いつつも海岸沿いにやって来た進はそこで出会った頃と同じく中年の男とともに外車に収まる美潮の横顔を捉えた。進は車が止まっている間に4輪全ての空気を抜き、まともに走れないようにした。豪雨の中、渋々出てきた中年男に進は素知らぬ顔をして近付き、修理を呼んだ方がいい、車に乗っているのはクラスメイトだから送っていきますと矢継ぎ早にまくし立てて、その場で呆然としている美潮を強引にヨットが収まる廃工場に連れていった。そこで美潮はあの三十代半ばの中年男が婚約者なのだと打ち明ける。相手は榎木田興産の取引先最大手の社長の息子だった。悪天候にも関わらず美潮はヨットの船体に手をかけ、海へ向かって力一杯押し出そうとした。死ぬぞと止める進に美潮は「いいから離して!」と叫ぶ。進は咄嗟に両手で美潮の身体を抑え込んだが、美潮はこれでお父さんのところに行くのだと言って抵抗する。ようやく落ち着くと二人は隣り合って座った。進はまた海に行こうと提案し、美潮は他の二人が来ない日ならと引き受けた。美潮は今日の後始末もあるから海に行く日までは顔を出さないと行って去った。帰り際に美潮は一瞬だけ微笑を浮かべていた。
 進は浩介と莉佳子に美潮が婚約者問題を抱えているという事情を話した。二人は驚いたが、逆に駆け落ちになっても支援するといわんばかりに進にエールを送った。当日進はマンション前で待つという約束を破って、部屋番号を押して正面から美潮のマンションへ入り、今日一日遊びに行く許可を美潮の両親から取り付けることに成功した。帰宅した美潮はリビングで待っていた進を見て心臓が止まるかというほどびっくりしたという。最初こそ約束と違うと毒づいていた美潮だが、駅を降り、デートを始めると笑顔が増え、心から楽しんだ姿を見せた。最後の高級フランスレストランでの食事の際、進は今日一日楽しく過ごせたのは自分がきちんと美潮の両親の承諾をもらったからだといい、美潮も今後は夏期講習だと嘘をついてセーリングに来ずに正面から両親と向き合うべきだと言った。進は何とか分かってほしいと祈っていたが、聞き終えた美潮は今日が自分の望むように過ごせる「最後の誕生日」だと告げ、卒業はするつもりだが、来年の今日が過ぎたら(18歳になったら)すぐ式を挙げて、婚約者と籍を入れると言った。衝撃を受け、帰ろうとする進を美潮は呼び止める。「平日の夜だから、いくらでも部屋は空いてるでしょ」と言ってお金を渡してホテルへと促した。憤然として半ば自棄になった進は少し荒々しく美潮を抱いた。キスを重ね、いよいよ挿入する時に、美潮からもう一度キスしてくれるように頼まれる。美潮はそっと「愛してる」と囁いた。挿入した際、溢れ出た血の量から生理中であったことが発覚する。美潮はあんな奴が初めてなんて(耐えられなかった)と告白した。別れ際に美潮は一方的にもうセーリングには行かないと言った。進の言うことは分かるし、自分もこの高級マンションに住む人達が大嫌いだが、母親を路頭に迷わせることはできないという。美潮にしてみれば今日楽しかったのは両親が許してくれたというよりも進と二人で時間を共有できたことそのものだった。唇に触れるキスを交わした後に、美潮は一度も振り返ることなく、足早にマンションへと消えた。
 翌日、進は美潮がもう来ないと言った昨日の顛末を浩介と莉佳子に告げた。莉佳子は「(進くんは)何も判ってない」と激怒し、進を殴った。ただ婚約なんて捨てちゃえと言ってほしかったはずの美潮に一歩踏み出すこともしなかった進を痛烈に面罵した。傍で聞いていた浩介はどちらの言い分も分かるとし、まだ一年あるから慌てるなと言った。
 年が明けた時、美潮はカンパとしてバイトで貯めたお金を現金書留で送付した。だが、結局あのデートの日以降一貫して姿を見せることはなかった。時は流れ、3年の夏休み、高校の近くの神社の祭りで莉佳子と進が仲睦まじくデートをしている姿がその日のうちに写メでクラス中に出回った(椎木莉佳子の項目を参照)。翌日、案の定、進の前に姿を見せた美潮は髪をショートにしていた。やって来て初めて莉佳子の術中にはまったことを悟るが、祭りの夜に莉佳子と進が本当にキスを交わしたことが分かると一瞬に血の気が引いた。その後は舌鋒鋭く進と向き合って言い合いになった。
 翌日から美潮は何食わぬ顔でセーリングに現われた。そしていつしか進と美潮は海芝浦駅に寄って帰るのが日課になっていた。
 2年間待ちに待った航海の日がいよいよ翌日に迫り(渡航計画については宮地進の項目を参照)、美潮は高揚する気持ちを抑えられないようによくしゃべり、初めてベイブリッジやつばさ橋がライトアップされる時間まで海芝浦駅に残った。美潮としては進を送り出す気満々でいたが、いつものように進を見送りに国道駅の改札を出た時、突然進から航海に行くのは自分じゃなくて美潮だと告げられる。進としては来週に迫る美潮と婚約者の挙式を見届けるくらいなら、もう美潮と会えなくてもよいと身を引くことを決意して、この日に先立って浩介に自分の乗る権利を美潮に譲るように頼んでいた(ヨットは2人乗りである)。美潮は急な事実に今にも火を噴きださんとするかのように怒ったが、進は美潮に今だからこそ親父さんの待っているところに自力で行けばいいと告げる。進が決めたことならと最後には矛先を収めた美潮は、去り際に「わたし最初から……進が、ずっとわたしを好きだったって、知ってたよ」と告白した。
 帰宅後、進はやけ酒をしてひどい二日酔いに悩まされた。翌日には嘔吐し、襲い来る痛みに寝込んだ。それでも夕刻にはふらりと海芝浦駅へ赴き、もう旅立ったであろう美潮に思いを馳せながら海を眺めた。二年前、浩介と出会った際にも持っていたライターに火をつけたその瞬間、横から現れた美潮に咥えたタバコを奪い取られた。美潮は結局ヨットには乗らずに浩介と莉佳子に役割を譲ったのだという*1。「おまえがあんな男と結婚するのを見るのはまっぴらゴメンなんだよ」と言った進に美潮は「あの男と結婚しなければ、相手は誰でも良いわけ?」と問うた。進が観念したかのように「……俺以外の誰かのものになるくらいなら、死んでくれ」と言うと美潮は何で最初から「俺と一緒に来い」と言ってくれなかったのかと瞳を潤ませ、「あんたに、わたしが好きだって言わせるって決めたの!」と言って、進の右腕を思い切り引き、腰にかついでホームから海へと投げ飛ばした。二年前の出会った時と同じ光景に今度は「上がりたかったら……おとなしく、わたしが大好きだって告白しなさい!」と言い放った。進がなおも美潮に本当に俺で良いのかと尋ねようとすると返答代わりに細い爪先で蹴り、「そんなバカなこと口走るくらいなら海の底に沈んで死になさいっ!」と叫び、頑なに進からの告白を待つ姿勢を崩さなかった。ようやく進が告白すると美潮は自分も海に飛び込み、進に抱きついた。二人はそのままあのデートの日以来のキスを交わすことになった。
 その後美潮は進の家に身を寄せ、弁護士でもある進の父と対面し、自らの婚約者のことを相談した。自分で全てを選択できるように何とか親権を手に入れる方法はないかと真顔で言う美潮に対し、進の父は一つの案として親の承諾など紙切れに判子がついていればいいだけの話だから先に他の男と婚姻届を出して20歳になるまで両親には黙っていればいいし、もしバレても役所や両親を相手に徹底抗戦して粘れば一年は裁判を引き伸ばせるとアドバイスした。ただし、その上で親権者といえど本人の同意なしに婚姻させることはできないから一度両親と話し合えばそれで全て解決できるのではと付け足すことを忘れなかった。美潮は結局両親と話し合うことを受け入れた。美潮を見て極端な案を提示してからでなければ受け入れないだろうと判断した弁護士らしい論の進め方だった。その後進の父は家に連絡を入れるから今日は泊まっていきなさいと美潮に言った。夕食をともにし、美潮は本当にいいお父様だと感激していた。
 進の父は気を遣ったのか用事があって今夜は戻れなくなったといって家を出て行った。二人は約一年ぶりにカラダを重ねる。美潮は翌朝これは「二人の問題」だからということで進も同行させ、両親と対峙することになった。美潮の父は狼狽えた様子も見せず、穏やかに二人の話を聞き、頷いた。それどころか初めて(「お父様」ではなく)「お父さん」と美潮が呼んだことに嬉しそうに笑った。相手とは自分で話をつけるという美潮に対して父は「相手方との話は、わたしに任せておきなさい。」と言い含め、結果として翌週の結婚式は急遽取りやめとなった。


セリフ

「ふん。あたしをこんな……自分は助かろうなんて甘いのよ!」
→進を道連れにする形で海に落して。その後自分が上がった後も「あんた、まさかこのまま大人しく上がれると思ってんじゃないでしょうねぇ……まさかそんな、ねぇ」とローファーの踵で進を踏みつけた。

「今すぐ土下座してあたしの靴を舐めて三べん回ってワンと言いなさい」「そうしたら……そうね、慰謝料十万円で許してあげる」
→ビンタの件で謝ろうとする進に対して。

「よ、よく判らないけど……浩介くんは、無理矢理襲ったりしないんじゃない?……もう一人はどうだか知らないけど」
→莉佳子の「二人とも案外スケベそうだし。あんな連中に襲われるくらいなら、あたしと一緒に海の底に沈んでくれるよね」との言に対して。

「あの日のために……好きでもない男と、ホテル代自腹で入るわけないでしょ!初めてで……バカァッ!本当に死ねっ!」
→最後の告白シーン。


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